表面だけすくって僕のなにがわかるのだ。
(パンダ談)
あのね、聞いて。
健康の話なんだけど。
「……あ、ブロックされてる」
画面に表示されたその無機質な事実に、僕は少しだけ指を止めた。
どうやら僕は、その人にとって「許せない透析患者」だったみたいだ。
フルーツを食べて、ジャンクフードを楽しんで。
そんな僕の投稿が、ストイックに自分を律している誰かにとっては、不真面目な暴飲暴食に見えたんだろうなぁ。

ちょっと待って!
パンダくんをブロック!?
あんなに毎日一生懸命データを記録して、自分の体と向き合ってるパンダくんを!?
信じられない!

ホッホ。感情的になるなイオリちゃん。
データ主義的に見れば、相手は「透析患者=節制すべき」という旧来のアルゴリズムに従っているだけだホォ。

でも、パンダくんはただ遊んで食べてるわけじゃないじゃない!

そうだね。
でも、お前に僕が積み重ねてきた時間と努力の何がわかるんだよ、とは一瞬思っちゃったかなぁ?

厳しい言い方だホォ。
だがパンダくん、君のその「自由」は、かつての絶望的な数値との戦いの上に築かれた城だホォ。
そうなんだ。
昔の僕は、今とは全然違った。
どう頑張ってもリンは高いし、体重管理もボロボロ。
検査結果が出るたびに、先生や栄養士さんと首をひねって、にらめっこして…。
「何がいけないんだろう」って、暗闇の中で瞑想するみたいに悩んでたんだ。
もう、なにも食べるものないよ。
何度もそう思った。
コーヒーに入れられたクリープ。
カレーにかけられた生クリーム。
グラタンが出てきただけでも絶望するほど悩んだ。
これらはリンの塊だ…ってね。
加工食品だってそうだ。
食べるのが怖かった。
B’zにWILD LIFEという歌がある。
その歌詞に
ここまで来るには それなりの経過もある
他人にはわからないけど 自信は煙のようだった(中略)
「人生は一度しかない」 ブロンコ・ビリーも決めた
嘘なんていらない カウボーイになりたきゃなれるように RIDING ON THE HORSE
という歌詞がある。
今、好きに食べてるように見えるには積み重ねがある。
だいたいこれくらいなら大丈夫だな、を繰り返してきた歴史がある。
あれはダメ、これはダメ、であきらめなかった過去がある。
それはゆでこぼしたり水にさらしたりする努力と何が違うだろうか。
ベクトルの違いだけではないだろうか。
と、思う。
一度しかない人生。
どうエンジョイするかの努力という点ではみんな同じじゃないか。

そんな時期があったんだ…。
今のパンダくんからは想像できないよ。

ひたすら試行錯誤の連続だったよ。
アイデアを出しては試し、次の検査で答え合わせ。
その繰り返し。
そうやって「自分なりの加減」を必死で掴み取ってきたんだ。

その「加減」を成立させている最大の変数は、君が選択した「長時間オンラインHDF」だホォ。
普通の患者なら、その食事量は即座に心不全や高リン血症のリスクを招く。
だが、長時間かけて毒素を抜く君の体は、いわば「高性能な浄水器」を備えた特装車のようなものだホォ。

比喩がわかりやすい!
つまり、普通の車(標準透析)が無理なスピード(食事)を出したら壊れるけど、パンダくんの車は特注だから耐えられるってこと?

その通りだホォ。
だが、それを「不真面目」と切り捨てるのは、F1マシンに向かって「燃費が悪い、軽自動車を見習え」と言うようなもの。
ナンセンスだホォ。

そもそも最初はオンラインHDFじゃなかったからね。
僕がオンラインになったのは最近のことだよ。
僕の透析人生のほとんどは、HDだよ。
施設が新しくなって、やっとオンラインHDFになった。

そうだったんだね、条件が整う前から試行錯誤して努力してたんだ…。

僕は、自分を縛るために努力したんじゃない。
自分を自由にするために、血の通った努力をしてきたんだぱん。
ブロックしたその人は、自分を「縛る努力」をしているのかもしれない。
それもひとつの正解だと思う。
でも、僕の「自由になるための努力」を、古い常識で否定されるのはやっぱり違うと思うんだ。

…認めざるを得ないホォ。
私は効率と数値だけを見ていたが、君のその「自由」は、数値化できない「覚悟」という名のコストを支払って手に入れた、君だけの最適解だホォ。

そうだよ!
パンダくんの記録は、今暗闇で悩んでいる誰かのヒントになるはず。
私は、その「自由」を勝ち取ったパンダくんを全力で推すよ!
僕はこれからも記録を残し続ける。
もしも昔の僕みたいに、どうすればいいか分からず悩んでいる人がいたら。
僕の足跡が、その人を自由にするための道しるべになればいいなと思ってる。
答えは人によって違う。
その答えを記した地図を、あなたも広げられるようになれたらいいと思う。



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