【現在のワガママ城ステータス】
まだ無傷のホームセンター製テント
鬱蒼と茂る竹林の奥深く、運命の歯車が再び不穏な音を立てて回り出す。
国家予算を失い、緑の布切れ一枚を「城」と呼ぶ極限の逆境にあっても、誇り高き民の歩みが止まることはない。
しかし、平穏なる建国の夜明けは一瞬にして破られる。
深緑の影から現れたのは、富を貪り、運命を弄ぶ、和装の怪しき異邦人。
新たなる出会いは国を救う福音か、それとも破滅へのカウントダウンか。
今、小さなテント(城)の前に、予測不能な交易の幕が上がる。
「パチ、パチ、パチパチパチ……」
静かな竹林に、突如として軽快なそろばんの音が響き渡った。

おやおや、このような辺境の地に、なんとも愛らしいお城があるものでござるな。
……おっと失礼、拙者は旅の商人。
以後、お見知り置きを。
着物に身を包んだ怪しげな男が、不敵な笑みを浮かべて現れた。
記念すべきワガママ商人の初登場である。

む、キミは誰だい?
僕サマの美しいお城に何か用かな?
王子は愛馬(白馬)の白く美しいたてがみを、100均のブラシで熱心にブラッシングしながら振り返った。
白馬は王子の手元に気持ちよさそうに目を細め、鼻を鳴らしている。

これ、商人!
ここはワガママ王国の神聖なる王宮(テント)の前です。
勝手に立ち入ってもらっては困ります。
……というか、見るからに怪しすぎます、その和装。
執事が鋭い視線で銀縁メガネを押し上げ、王子の前に立ちはだかった。
しかし、商人は全く動じず、懐から怪しげな図面を取り出す。

お硬いことを言わんでくだされ、執事殿。
拙者はこの素晴らしい建国を祝し、最先端かつ最高級の『気象コントロールマシーン』を持参したてまつった!
これさえあれば、このお城の気候は自由自在、常夏にも極寒の雪山にもできる優れものでござる!

おおお……!
気象コントロールマシーン!?
そんなすごい伝説の古代兵器みたいなものが、この世にあるんだね!
王子は白馬のブラッシングを止め、一瞬で目を輝かせた。

っふーーーい!!(過呼吸)
白馬のたてがみを愛おしそうに撫でる王子からの、この少年のように目を輝かせるギャップ……っ!
尊い、無理、スマホの容量が爆発する……!
ピンクの髪のメイドが、激しく悶絶しながら背後の藪からシャッターを連写(爆音)している。
もちろん推し活SNS用である。

……王子、騙されてはいけません。
商人が持ってきたそれ、どう見てもただのプラスチック製の『扇風機』です。
しかもホームセンターで型落ちで売られているやつです。
うちわで十分でございます。

何を言うんだい執事!
気象を操るなんて男のロマンじゃないか!
拙者(商人)の熱いプレゼンに、僕サマは今、『ゴリゴリ夢中』さ!
腰に手を当て、これ以上ないドヤ顔で言い放つ王子。
(天の声:王子、それを言うなら『五里霧中』でございます。しかも意味が完全に『迷子』になっておりますが、商人の口車にゴリゴリに夢中になっていることだけは痛いほど伝わってまいります)

ハハハ!
王子殿は話がわかる!
では、こちら建国お祝い価格として、国家予算の全額(※数百円)で手を打ちましょう!

よし、買おう!

お待ちください王子!!
執事が間一髪で王子の財布(がま口)を取り上げた。

そもそも、この竹林のどこにコンセントがあるのですか!?
電気が通っていません!
扇風機どころか、我々が夜な夜なポータブル電源でギリギリ繋いでいるスマホの充電すら、これを回したら一瞬で消え去りますよ!?
王子はスマホの充電を諦めるおつもりですか!?

あ……スマホが使えないと、崎陽軒のシウマイが今どこを走っているか追跡(アプリ確認)できない……!

そこですか!?
執事のツッコミが竹林に木霊した。
その時、緊迫した空気のなか、王子の耳の裏から、
「ピッピッピッ! ピッピッピッ!」
と、けたたましい警告音が鳴り響いた。
超高性能グリンピースセンサーの作動音である。

……はっ!
この気象コントロールマシーン(扇風機)の裏側……羽根の隙間に、緑色の小さな天敵が、びっしりと貼り付けられている……!

ひえっ!
バレましたか!
遠くで見守っていたシェフがガタガタと震えだした。
実は、扇風機の風に乗せて王子の口にグリンピースの成分を送り込もうという、シェフの決死の栄養補給作戦だったのだ。

王子、すり潰してない生のグリンピースが羽根に貼ってあったら、センサーじゃなくても普通に目視で分かります。
執事が深いため息をつく横で、商人はちゃっかりそろばんをパチパチと鳴らした。

なるほど、電気がないとは計算違いでござった。
では次は、コンセント不要の『全自動・手動式人力団扇(うちわ)』を持ってまいります。
……いや、まずは電気の開通ビジネスでござるな。
フフフ……。
商人は不敵に笑いながら、暗闇の竹林へと消えていった。

ふふん、電気なんてなくても、僕サマにはこの白馬のパタパタする尻尾の風があるから涼しいもんね!
(天の声:王子、それはただの馬の虫除けでございます。しかも風、全然届いておりません! ワガママ王国の明日はどっちだ!)


