直射日光で室温40度を超える、まだ小さくてかわいい3人用テント。
太陽は容赦なく地上を焼き尽くし、草木さえもその首を垂れる無慈悲な酷暑の刻(とき)。
国家予算ゼロ、いまだ広大な敷地の隅にポツンと佇む「小さくてかわいい3人用テント」は、蒸し風呂のごとき灼熱の檻と化していた。
しかし、どれほど過酷な運命に晒されようとも、我らが王子の高潔なる精神が潰えることはない。
例えその身が、暑さでドロドロに溶けかけていようとも――。

ふ、ふはは…見るんだ執事…僕サマの体が、まるで温められたバターのように液体化しつつあるよ…これぞまさに『一冷即発』の危機だ…!

それを言うなら『一触即発』でございます、王子。
そして液体化しているのではなく、単に汗をかきすぎてデロデロになっているだけでございます。
頼むから白馬のブラッシング中に倒れ込まないでくださいね。
テントの影で、愛する白馬のたてがみに愛おしそうにブラッシングを施しながら、王子は今にも崩れ落ちそうになっていた。

尊い!
汗だくになりながらも愛馬の手入れを怠らない王子…これ絶対バズる!
物陰からピンクの髪を揺らし、メイドがスマホのシャッター音を消して激写する。
その時、シャラシャラと涼しげだが酷く胡散臭い鈴の音が響き渡った。

ヘッヘッヘ……お暑い中でござるな、王子様!
和装に身を包んだ怪しい商人・ワガママ商人が、そろばんをパチパチと叩きながら現れた。
その手に握られているのは、一見すると何の変哲もない「袋かき氷」である。

ぬ……?
何だその袋は、商人!

これぞ東洋の秘宝!
『極寒・四位一体の氷袋』でござる!
手に持てば一瞬で涼風が吹き荒れ、火照った体に押し当てれば至高の冷却!
枕に敷けば極上の夢心地!
そしてなんと……食べればお腹の中から身体を凍らせるという、伝説の神薬でござるよ!
ただの袋かき氷を怒涛の大げさトークで売り込む商人に、執事は冷ややかな視線を送る。

ただのイチゴ味の袋かき氷でしょう。
騙されてはいけませんよ、王子。
だが、暑さで思考が麻痺していた王子は、商人の言葉に目を輝かせた。

な、なにそれ……!?
かしてかして!
王子はひんやりとした袋かき氷を頬に押し当て、さらにそのまま口へと流し込んだ。

―――――っ!!??
冷たい……!
そして、あ、甘くておいしい……っ!!
体の底から奇跡の涼しさが湧き上がってくるよ!!
これこそ東洋の神秘!!

王子!
落ち着いてください、ただの袋かき氷です!

だめだ執事!
これはこの国に必要な文明の利器だ!
商人、買い占めるよ!
国庫(※王子のポケットマネー)からすべて支払っちゃう!

毎度ありでござる~!
ホクホク顔で立ち去る商人。
こうして王子は大量の袋かき氷を手に入れ、大満足で床についたのだった。
◇
翌朝。
太陽が再び昇り、テント内が灼熱の蒸気で満たされる頃。
王子はドヤ顔で「極寒の宝」を手に取った。

フフフ、見てよ執事。
今日もこの神薬で涼をと……ん?
王子の手にある袋は、ぶよぶよと柔らかかった。
ストローを差し込み、一口飲んだ王子は固まった。

……ぬるくて……ただただ甘い赤色の水になっている……。

当たり前でしょう。
この小さなテントのどこに『冷凍庫』があるとお思いですか。
呆れ果てる執事の横で、シェフが

冷えたシウマイでございます。
と差し出すが、王子の耳裏から「ピッピッピッ!」と鋭い警戒音が鳴り響いた。

シェフ……!
このシウマイに練り込まれたグリンピースの存在を僕サマのセンサーが感知した!
けど……崎陽軒のシウマイに免じて今回は許す!
それより執事、氷水になったこれを凍らせる魔法の箱(冷凍庫)を売っている商人を呼んできて!!

だから予算がないと言っているでしょうが!!
ぬるいイチゴ水をジュースのようにすすりながら、王子は今日も今日とて、灼熱のテントの下でワガママに復興を夢見るのであった。


