――その昔、父君より授かりし聖地・竹林は、文明の光が届かぬ「圏外の監獄」であった。
杉と檜が天を突き、花粉の粉雪が舞い散るその中心で、1人の気高き魂が咆哮した。
それは、自らを「愚弄(グロウ)」する運命との戦い、そして指先1つで世界を創り直す聖なる転生儀式の幕開けであった。
1張りのワンタッチテントを城と言い張るその男は、今、魔導機(スマホ)に宿る「鉄の翼」に救いを求めている。

…いいかい執事!
誰がなんと言おうと、この『ドラゴンクエスト スマッシュグロウ』という名のゲームは、僕サマに対する宣戦布告なんだよ!
そもそも『グロウ(愚弄)』だなんて、僕サマを馬鹿にしているにも程があるじゃないか!

王子…それは聞き間違い、あるいは被害妄想です。
そのグロウは『成長』や『輝き』という意味の…あ、いえ、スマホを振り回すのはおやめください。
電波が死に絶えます。

うるちゃいなぁ!
僕サマは、この愚弄に屈しないために『徳』を積み直すんだ!
さあ、リセマラ(転生儀式)をはじめるよ!
この世界を消して、より高貴な僕サマとして産声を上げるんだ!
――だが、神の試練は過酷であった。
数日間に及ぶ転生の果て、王子の手元に届いたのは、希望の翼ではなく一本の「鉄の棒」であった。

…でない。
どうしても『メタルウィング』が出ないよ…。
神様は僕サマに、この『メタスラの剣』という名の高級な物差しで地を這えと言うんだね。
くっ、一瞬の虫にも…五分の魂だ!
今はこれで我慢して、冒険の旅に出るよ!

王子!
そんなことより、もう三日三晩リセマラに明け暮れて、お手元の公式日記帳は白紙のままではございませんか!
早く何か…何か復興の記録をお書きください!
それに、予算のソロバンが摩擦で発火しそうでございます!

もー!
日記なんて後回しだよ!
今は冒険を進めて、徳(ジェム)を貯めるのが先決なんだから!
冒険の旅は続いた。
しかし、王子の胸中に宿る「空への憧れ」は、日増しに膨らんでいく。

…やっぱりダメだ。
僕サマにはこのメタスラの剣は重すぎる。
僕サマには、竹林を飛び越えてコンビニへ向かうための『メタルウィング(脱出用ジェット機)』が必要なんだ!

…フフフ、王子。
執念を燃やすのは結構ですが、まずはこの夜食の『タケノコと若竹の滋養スープ』をお召し上がりください。
これぞ王者の栄養でございます。

わあ、おいしそ…(ピッピッピッ!)
待って!
僕サマの耳裏から警告音が鳴り響いたよ!
湯気の中に、微かな『緑の邪気』が混じっている!
シェフ、スープの底に茹でたグリンピースを潜ませて、僕サマのガチャ運を下げようとしたね!?

…チッ。
空腹で五感が研ぎ澄まされすぎていますか。
邪気を払い、精神を研ぎ澄ませた王子が再び魔導機のボタンに触れたその時、銀色の閃光が竹林を照らした。


キ、キターーーー!!
『メタルウィング』降臨!
見てよ執事、この輝き!
ついに僕サマの背中にロイヤルジェット機が装備されたよ!
王子はそのまま、顔も名も知らぬ民たちが集う「マルチプレイ(謁見の間)」へと出撃した。

ああ、見てごらん。
名もなき民たちが強大な敵にいじめられて困っているよ。
可哀想に…。
でも安心したまえ、今、真の王者が助けに来たよ!
はあああああ!
(メタルウィングを振り回す)
王子の放つ「ロイヤル・オーラ」と鉄の翼の乱舞により、雑魚モンスターたちは一瞬で浄化(一掃)された。
画面に大きく躍り出たのは「MVP」の文字である。


ふふん、当然の結果だね。
民たちは今頃、僕サマの神々しさに涙を流して感謝しているはずだよ。
名前も知らない彼らに、僕サマという光を拝む権利を与えてあげたんだ。
これこそが王者の、王者の…えーと、一石二鳥(いっせきにちょう)だね!

王子…!
ゲームで民を救いMVPを取られても、現実の我が城は依然としてこの布切れ(テント)のままでございます!
お願いです、スマホを置いて、1文字でもいいから白紙の日記を埋めてください…!

分かってるよ!
でも今は、救った民たちが僕サマを称えるパレードの準備をしてるかもしれないから、もう1回マルチプレイに行ってこなきゃいけないんだ!
大臣も後ろでソロバンを鳴らして景気づけをしてよ!

