鬱蒼たる竹林の奥深く、文明の灯火から隔絶されたその聖地において、一つの奇跡が胎動していた。
かつて栄華を極めた王国の再興を期し、吹き荒ぶ花粉の嵐と圏外という名の鎖国に耐え忍ぶ若き指導者。
彼の凍てついた孤独を融かすかのように、泥濘の隙間から頭を覗かせた、名もなき緑の息吹。
それは、失われた富と栄光を取り戻すための、神聖なる号砲であった。
風に揺れる小さな双葉を前に、運命の歯車が静かに、しかし激しく回り始める。

おはおーじ!
新生ワガママ城(テント)の主にして、未来の覇王たるワガママ王子サマである。


見ておくれよ、みんな!
我が領土の肥沃なる大地(※水耕栽培キット)から、ついに待望の緑の妖精が誕生したんだ!
そう、これは我が王国の国力を一網打尽にするための、歴史的な第一歩なのだよ!

王子、それを言うなら国庫を『一潤(いちじゅん)』させる、あるいは国力を『増強』する、ですね。
あと、一網打尽は敵を捕らえる言葉です。
それにしても、ただのレタスの芽が出ただけでそこまで大騒ぎできる貴方様の脳内は、ある意味で空前絶後と言えます。

もー!
執事はいつも細かいんだから!
芽が出たってことは、もうこれは立派な『フルコース』ってことだよ!
メイド!シェフ!すぐに僕サマの食事の支度をしておくれ!

は、はいっ、王子サマ!
すぐに特製のテーブルセットを竹林の真ん中にセッティングいたします!
ああ、純白のナプキンを首元につけ、右手にナイフ、左手にフォークを握りしめてスタンバイされる王子サマ……!
目の前にあるのは高さ1センチの双葉なのに、まるで100ポンドのステーキを前にした気高きライオンのよう……!
尊すぎて、私のシャッターを切る指が光速を超えそうです!
(カシャカシャカシャ!)

……お待たせいたしました。
本日のメインディッシュ、大自然の恵み(※ただのレタスの芽)でございます。
……さあ、王子、どうぞお召し上がりください。

わあ、美味しそ……
(ピッピッピッ! ピピッ!)
あーっと!
誰もが予想したこの展開!
王子の耳裏から、あの不穏な警告音が鳴り響いたー!

待って!
僕サマの超高性能グリンピースセンサーが、大気中の微かな『緑の波動』をキャッチしたよ!
シェフ!お前、このレタスの芽の裏側に、極小の茹でたグリンピースを擬態させて隠したね!?

……チッ。
レタスの緑と同化させれば、5G並みの感度を誇る王子の豆センサーも狂うかと思ったのですが……。
相変わらず、嫌いなものに対する執念だけは国家予算級ですね。

お、おおおおお……っ!
王子! 執事! シェフ!
食べるのはおやめくだされーーー!
ここで予算管理の鬼、和装の大臣が算盤を激しく弾きながら、目を血走らせて突っ込んできたー!

このレタスの芽は、我が王国の未来を握る『黄金の果実』!
拙者が算盤で弾いた試算によれば、この芽を今すぐ市場に卸せば、数日後には国庫がガッポリと潤い、念願の金ピカの城への改築費用が爆誕するはずでござる!
これを今食べるなど、国家反逆罪に値する暴挙!
ああ、予算がないと絶望していた我が国に舞い降りた救世主よ……!
嬉しさのあまり、拙者はこのまま竹林で筍になって土に還りまするーーー!

大臣、落ち着きなさい。
1ミリの芽が数日で大金に化けるわけがありません。
貴方の算盤は時空が歪んでいるのですか?
あと、勝手に筍になって義務を放棄するのは絶対に許しません。
王子も、ナイフとフォークで地面の土を掘り返すのをやめなさい。
それは食事ではなく、ただの耕作です。

ふん、みんなして僕サマの天才的な経済理論が理解できないなんて、まだまだだね!
いいかい?
このレタスが大きく育ったら、世界中の富豪が僕サマのレタスを求めて列をなすんだ。
その時こそ、我が王国の『富貴栄華』は完成する!
だからね、未来の特大レタスを先払いしたと思って、今日のところは大臣の備蓄の乾パンをフルコース風にいただくよ!
いただきまーす!

……確信犯的な横領ですね。
後でしっかり国庫から引いておきます。
王子のエデンはこちら。


