静寂に包まれた聖地・竹林。
そこには、1張りのワンタッチテントを「城」と言い張る1人の王子の、あまりにも孤独で、あまりにも尊い戦いがあった 。
春の陽気に誘われ、舞い散る黄色い粉(花粉)に鼻を赤くしながらも、王子は一枚の紙に向き合い続けていた 。
すべては、ネットの空を越えてやってくる旅人(国民)たちへ、自らの魂を刻んだ「御印」を授けるため 。
だが、高貴なる指先から繰り出される筆跡は、王子の熱き想いを体現するかのように、紙の上で激しくのたうち回っていたのである。
爆誕!紙の連峰と「ミミズの舞(ソウル・サイン)」

…ふぅ。
見てよ執事!
これが僕サマの、入魂の『一網打尽(いちもうだじん)』だよ!
王子がドヤ顔で掲げた紙には、文字という概念を超越した「何か」が、のたくっていた。

…王子。
それを言うなら『入魂の逸品』です。
あと、この紙の上で絶命しかけているミミズのような線は何ですか?
呪いの儀式か何かでしょうか。

もー! 失礼だなぁ!
これは僕サマの気品が溢れすぎて、ペンが勝手に踊っちゃった『ダンシング・ミミズ・アート』なんだよ!
ほら、この何百枚もの失敗作(アートの山)を見てよ!
竹林が真っ白に埋まって、まるで雪国みたいでしょ?
王子の足元には、書き損じた紙が文字通り山を成していた。

(ガタガタと震えながら)
お、おおおお…!
なんという…なんということでございますか!

大臣、泣かないでください。
ただの書き損じの山です。
後で裏紙としてメモに使いますから。

何を仰いますか執事殿!
見なされ、この紙に刻まれた複雑怪奇な文様を!
これは…これは失われた超古代文明の『神聖文字(ヒエログリフ)』に違いありませんぞ!
王子は我ら凡人には読めぬ古代の英知を、歴史の深淵から呼び覚ましておられるのだぁーっ!

(カシャカシャ!)
尊い…!
歴史を再構築する王子サマの横顔、完全に国宝です!
今すぐ『#古代の王の帰還』でアップしますね!

ふん、古代文字だろうが何だろうが、指がインクで汚れていては料理が台無しです。
ほら、建国祝膳の『グリンピースの古代風すり流し』ですよ。

(ピッピッピッ!)
…待って!
僕サマのセンサーが、古代の呪い(豆の波動)を検知したよ!
シェフ、さては文字の練習で僕サマが疲れている隙を狙ったね!?

チッ…。
文字を解析する知性はなくても、豆を嗅ぎ分ける野生の勘だけは一級品ですか。

へへーん!
だって僕サマは賢いからね!
この『古代ミミズ文字』のサインをBASEで販売して、その売上でこのテントを金ピカの城にするんだ!
これぞまさに『自画自賛(じがじさん)』の極みだよっ!

(ため息)
…王子。
それを言うなら『一攫千金(いっかくせんきん)』です。
もっとも、その文字が読める国民がいればの話ですがね。

大丈夫!
みんな僕サマのファンなんだから、ミミズの言葉くらい解読できるはずだよ!
さぁ、大臣!
早くこの『歴史的資料』を梱包して!

ははっ! 直ちに!
この『神の啓示』を汚さぬよう、シルクの手袋を用意いたしますぞー!
歴史は夜、竹林で作られる
こうして、数百枚に及ぶ「古代ミミズ文字」の山は、大臣の手によって神々しく梱包され、デジタル商品としてネットの海へと放流された。
数時間後。
竹林に夜の帳が下り、テント(城)の中で王子は、インクの取れない指を眺めながら満足げに鼻を鳴らしていた。

ふふん、これで明日には、僕サマのサインを解読した国民たちが、感動のあまり泣きながら押し寄せてくるはずだよ。
まさに『疑心暗鬼(ぎしんあんき)』な人気っぷりだね!

…王子。
それを言うなら『飛ぶ鳥を落とす勢い』です。
疑心暗鬼は、誰も信じられなくなって疑い深くなっている状態のことですよ。
今の私のようにね。

もー!
またそうやって僕サマを疑うんだから!
ちゃんとBASEの売上で、執事にも『最高級の耳かき』を買ってあげるから楽しみにしててよ!

(鼻をすすりながら)
おお……王子……!
己の成功だけでなく、家臣の耳の健康まで気遣われるとは…!
やはりあのミミズ文字には、慈愛の精神が宿っていたのですな!

(カシャカシャ!)
王子の慈愛スマイル、頂きました!
背景の『紙の山』が後光に見えます!
尊すぎて視力がよくなりそうです!

(遠くから)
…やれやれ。
耳かきの前に、その真っ黒な指を洗ってから食事にしてください。
今夜は『ひき肉とグリンピースの古代文明風炒め』ですからね。

(ピッピッピッ!)
…待って! 執事!
今、シェフの口から不穏な『緑の呪文』が聞こえた気がするんだけど!?
これも古代文字の解読ミスかな!?
王子のサインが完売するのか、あるいは歴史の闇に葬られるのか。
それは、ネットの空を越えてやってくる旅人たちの「解読力」に委ねられたのであった。

大丈夫!
みんな僕サマの『一網打尽(いちもうだじん)』なセンスに、きっと『四面楚歌(しめんそか)』になっちゃうから!
(※注:王子は「一網打尽」を「一目置く」、「四面楚歌」を「夢中になる」という意味で使っていますが、誰にも指摘されぬまま、竹林の夜は更けていくのでした)



