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だからその手を離して

物語
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夢見ごこちの時間は、いつも唐突に終わる。
順調すぎるほど順調な仕事、眩いばかりの街の光、そして手に入れたはずの自信。
それらすべてを嘲笑うかのように、あの夏から伸びてきた手が、僕の足首に絡みつく。
SNSに残る執拗な足跡。
それは、僕が必死に脱ぎ捨てたはずの「情けない過去」を突きつける、元恋人からの無言のメッセージだった。
これは、まとわりつく過去の残滓を振り払い、本当の意味で自分のメインストリートを歩き出すまでの、孤独で静かな戦いの記録である。


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第1章:眩しいメインストリート

オフィスビルのエントランスを抜けると、まだ熱を帯びた夜風が頬を撫でた。
街はネオンの光で溢れ、人々が放つ高揚感が重なり合って、目も眩むような「メインストリート」を形作っている。

「お疲れ、最高のプレゼンだったよ」

背中を叩かれ、僕は短く笑って応えた。
今、僕の仕事はかつてないほど波に乗っている。
指先から溢れ出すアイデアが形になり、周囲の期待が数字となって返ってくる。
自分が世界の中心でタクトを振っているような、そんな全能感すらあった。

ふと、歩みを止めてスマホを取り出す。
新着メッセージを確認するつもりが、指先は無意識に、あるアプリの「通知」リストを開いていた。

一番上に、見慣れたアイコンがある。

更新するたび、それは執拗に僕の日常を覗きにくる。
僕がどれほど華やかな成果を投稿しようとも、その足跡は「お前はまだ、あの暗い路地裏の住人だろう?」と、ぎらついた目で問いかけてくるようだった。

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第2章:まとわりつく夏の残像

彼女は、僕がまだ何者でもなかった頃を知っている。
エアコンの効きが悪い安アパートで、将来への不安を冷めた缶コーヒーで流し込んでいた、あの夏。
その隣にはいつも彼女がいた。

スマホの画面の中で、彼女の新しい投稿が流れてくる。
映っているのは、二人でよく通った場末の中華料理屋のテーブルだ。
キャプションには一言、《あの時の味が忘れられないね。夏はまだ終わってないみたい。》とある。

「……いつまで、しがみついているんだ」

僕は思わず独りごちた。
今の僕にとって、あれは不格好な過去の断片に過ぎない。
今の僕はオーダーメイドのスーツを着て、高層ビルのラウンジで商談をしている。
あの中華屋の油の匂いなんて、もう記憶から消し去ったはずなのに。

彼女の「足跡」は、僕が新しい世界へ進むのを許さない。
僕が華やかなパーティーの写真をアップすれば、即座にいいねが付く。
まるでお祝いを言いたいのではなく、「そんな背伸びをして、疲れない?」と耳元で囁かれているような不快感。

彼女の存在は、僕の真っ白なシャツに付いた、決して落ちない泥のシミのようだった。
僕は慌てて画面を閉じ、ポケットの奥深くへとスマホを押し込んだ。

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第3章:路地裏からの手招き

仕事がさらなる高みへ到達した、ある夜のことだった。
プロジェクトの完遂を祝う、眩いばかりのライトに照らされた打ち上げの帰り道。
心地よい疲れと達成感に浸る僕のポケットで、スマホが震えた。

SNSの通知ではない。
直接届いた、一通のメッセージ。

そこには、僕が見たくなかった写真が添付されていた。
今の洗練された僕とは似ても似つかない、髪もボサボサで、自信のなさを隠すように俯いたままの、数年前の僕。

おめでとう。
But I’m the only one who knows the real you.
いつでも待ってる。

あの場所で。

「……ふざけるな」

吐き気がした。
彼女は「応援」を装いながら、僕の足元に広がる深い闇を指差している。
僕が今、どんなに眩しいメインストリートを歩いていても、彼女は執拗に路地裏から僕を手招きし、その「手」を伸ばしてくる。

彼女の中では、時間はあの夏のまま止まっているのだ。
僕を自分と同じ場所へ引き摺り下ろすことだけが、彼女の生きがいになっている。
その歪んだ愛という名の執着が、今の僕の空気を汚していく。

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第4章:その手を離して

僕は路上のベンチに腰を下ろし、画面を見つめた。
怒りに任せて罵倒の言葉を叩きつけるか?
それとも、どれほど自分が変わったかを論理的に説明するか?

指がキーボードの上で迷う。
だが、ふと気づいた。
僕が何かを返せば、それが怒りであれ憎しみであれ、彼女にとっては僕との「繋がり」になってしまう。
彼女が求めているのは、僕の反応そのものなのだ。

僕が彼女を否定しようと躍起になる限り、僕は彼女の土俵から降りられない。
「ひとりでも大丈夫さ」と言いながら、僕は彼女の視線を気にし、彼女の影に怯えていた。

僕は、指を止めた。
深く、息を吐き出す。

「……ここには、もう何もないよ」

僕は返信を打つのをやめ、設定画面を開いた。
彼女のアカウントを選択し、迷うことなく「ブロック」のボタンを押す。

一瞬の静寂。
画面から彼女の気配が消えた。
いいねも、メッセージも、過去の亡霊たちも。

視線を上げると、夜の街は相変わらず眩しく、冷ややかで、そして自由だった。
僕の人生を邪魔するものは、もう何もない。
僕を縛り付けていたのは、彼女の手ではなく、それを振り払うことを躊躇っていた僕自身の弱さだった。

スマホをポケットにしまい、僕は立ち上がる。
背後を振り返ることは、もう二度とない。
僕はただ、僕だけのメインストリートを、確かな足取りで歩き始めた。

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