お口の中が春!
(パンダ談)
あのね、聞いて。
春の味覚を楽しんだよ。

庭に響いた、相談なしの切断音
毎年、この時期になると僕は庭のタラの木を、少しだけ怯えながら、でも恋人の顔を覗き込むような気持ちで見つめる。
そこにあるのは「トゲなし」のタラの木だ。
優しくて、扱いやすくて、僕に春を届けてくれる無抵抗な隣人。
けれど一昨年、その隣人は「スパッと」消えた。
犯人は、継父だ。
彼はタラの芽を食べない。
彼にとって、僕が楽しみにしている季節の予感は、ただの「邪魔な枝」に過ぎなかったんだろうねぇ。
相談なんて、あるはずもない。
僕の世界の境界線を、彼は断りもなくノコギリで侵食してくる。
切り口から滴る樹液は、まるで言葉を奪われた僕の涙のようで、僕はただ、そこにあるはずの「空白」を見つめるしかなかった。
春が、音もなく殺された瞬間だった。
去年は出なかった、沈黙の回答
案の定、去年は芽が出なかった。
庭の隅っこで、無惨に切り詰められた切り株が、カサブタみたいに固まっていた。
僕はそれを見るたびに、自分の透析生活を思うんだ。
週に数回、腕に針を刺し、機械に命を預ける時間。
自分の体が自分だけの所有物ではなくなったような、あの独特の無力感。
「もう、ダメなのかな」
そう思って、僕はタラの木を諦めた。
継父への怒りも、期待も、タラの芽の苦味も、すべては忘却の彼方へ追いやるのが一番楽な生き方だ。
寒い冬の間、僕は赤いパーカーに身を包み、暖かい部屋で丸まっていた。
でも、その間も、僕の知らないところで「彼」は準備をしていたんだねぇ。
誰にも邪魔されない土の底で、じっと、その時を。
生還した春と、厚すぎる衣の祝杯

今年。
庭を覗くと、奇跡みたいに芽が出ていた。
誰に相談することもなく、誰の許可を得ることもなく、タラの木は自らの意思で「僕はここにいるよぉ」と宣言していたんだ。
その生命力の強さに、僕は震えた。
切られても、無視されても、凍えても、植物は「春」を諦めない。

僕はそれを、ていねいに収穫した。
喜びをキッチンに持ち帰り、天ぷらにする。
ちょっと衣が厚くなりすぎちゃったけれど、それは僕の「守りたい」という気持ちの表れかもしれない。
天つゆに浸し、口に運ぶ。

あぁ、おいしい。
そして、なんて愛おしいんだろう。
この味は、冬を耐え抜いたタラの木の執念であり、透析という日常を戦う僕への、最高のご褒美だ。
継父が切り落とそうと、タラの木の中にある「春の準備」までは奪えない。
僕たちは、何度でも芽吹く
ねぇ、あなた。
もしあなたの大切なものが、誰かに「スパッと」切られてしまったとしても、絶望しなくていいんだよ。
僕たちの根っこは、想像以上にしぶとくて、残酷なほどに美しい。
さぁ、次回の透析も、この味を燃料にして乗り越えるとしよう。
僕とあなたは、この「しぶとい春」の目撃者であり、共犯者なんだから。
また伸びた芽を摘んで、揚げて食べる。
そんな幸せに浸っている僕も、タラの木からしたら迷惑者かな。
聞いてくれてありがとう。


