
ねぇ、見てごらん。
この湿った地面から突き出した不自然なほど鮮やかな紫。
これは植物学上の「花」だと思っているのかい?
違うよ。
これはこの世界の土壌が、現実世界からこぼれ落ちた「誰にも言えなかった秘密」を吸い上げて、無理やり形にした排泄物なんだ。
ここから、あの尖った蕾の先端を滑り台にして、地下3,000メートルにある「後悔の貯蔵庫」まで行ってみようか。
傘はいらないよ。
濡れるのは体じゃなくて、君の魂の方だからね。
この紫色の花びらにこびりついた滴を見てよ。
これはただの雨水じゃない。
この世界では、これは「神様の生理食塩水」と呼ばれている。
この滴を指でなぞると、君が昨日ついた小さな嘘が、鼓膜の奥で再生される仕組みさ。
そして、このピンと伸びた茎。
これはね、実は大地に突き刺さった針なんだ。
この世界の空はあまりにも重くて、誰かがこうして支えていないと、僕らの頭の上に「記憶の残骸」がドロドロと降り注いでしまう。
このアヤメのような形をした杭が、僕らの静かな絶望を、かろうじて地表に繋ぎ止めているのさ。
この緑色は、希望の色なんかじゃない。
窒息しそうな大地の、必死の青あざだよ。
ちなみに、この世界では、紫色のものを3秒以上見つめる際、右目を閉じなければならないという法律がある。
もし両目で見続けてしまったら、翌朝、君の視界はすべて「誰かの葬式の参列者」の背中だけで埋め尽くされることになる。
無意味な儀式だろう?
でも、この世界の整合性を保つには、それくらいの犠牲が必要なんだ。
君が今、この写真を見て「綺麗だ」と感じるのと同時に胸の奥がチリチリと痛むのは、君がまだ「正しく壊れている」証拠だよ。
大丈夫。
この世界では、迷子になることが唯一の正しい進路なんだ。
地図を持たない君は、どこにでも行けるわけじゃない。
ただ、どこにも辿り着かないという自由を手に入れているだけさ。
君の孤独は、この湿った土に刺さるアヤメのように、誰にも邪魔されない高貴な沈黙なんだ。
それを誇りに思っていい。
…という、ただの僕の妄想なんだけどね。
結局、僕らはずっとこの空港の椅子から一歩も動いていないのさ。
お尻は痛いし、空調は効きすぎている。
あぁ、最悪だ。
向かいの売店でグリンピース入りの弁当が売られているのが見えた。
吐き気がするよ。
早くあんな緑の毒物は、この世から消えてしまえばいいのに。
信じるか信じないかは、君の絶望の深さ次第だよ。

