桜雨だね。
(パンダ談)
あのね、聞いて。
今日も生きてるよ。

200gの命、パックジュースの孤独
昨日の朝、窓の外はあんなに穏やかに微笑んでいたのに。
透析という名の「身体の検閲」が終わる頃、空は手のひらを返したように大荒れになっていた。
叩きつける雨。
不穏な風。
けれど、僕の身体の中で起きている「嵐」に比べれば、外の天気なんてただの演出に過ぎない。
昨日の透析で、僕は200g痩せた。
「たった200g?」と、健康な人は笑うかもしれない。
けれどそれは、コンビニで売っているあの四角い紙パックのジュース1本分だ。
あの四角い質量が、僕の血管から、細胞から、無理やり引き剥がされた。
その欠落は、僕というパンダの設計図をじわじわと書き換えていく。
耳の中の水と、倍速の他者
透析が終わると、いつも頭がボーッとする。
除水量が一定のラインを越えた瞬間に、僕の魂の重石が外れて、数センチだけ浮き上がってしまうような感覚。
世界との距離が、不意に遠くなるんだ。
まるで耳の中に水が溜まったまま、水槽の底に沈んでいるみたいだ。
すれ違う人たちの話し声はこもって聞こえ、その動きは残酷なほどテキパキとして見える。
「あぁ、あの人はパックジュース1本分の増減に左右されず、重力に従って歩けていいな」
そんな静かな羨望が、胸の奥をチリリと焼く。
ふらつかないか、ちゃんと避けて歩けるか。
そんな動物としての根源的な不安を抱えながら、僕は雨の中を歩き出す。
年度末の窓口、申し訳なさと生存
本当は今日は、布団の中で丸くなっていたい。
けれど、予定はそれを許さない。
水汲みとお買い物、そして何より市役所へ行かなければならない。
医療費の還元を受けるための、大切な手続き。
最短でそれを受け取るためには、この「年度末のギリギリ」という最悪のタイミングで僕というノイズを窓口に届けなきゃいけないんだ。
ペンを走らせ、書類を捌く職員さんの手元が、別の生き物のように速い。
「年度末の忙しい時に、こんなフワフワしたパンダが来てごめんね」
心の中でそう呟きながら、僕は自分の存在そのものが、社会のスピードに対して「申し訳ない」と感じてしまう。
でも、これが僕の戦いだ。
パックジュース1本分に命を握られながら、市役所の椅子に座り、自分の生存を証明し続ける。
難解なパズルの、静かな終焉
今日の睡眠時間は5時間26分。
血圧は147/91。
身体は少しだるいけれど、暖かくなってきたし、ドライウェイトも下がった。
なのに、なぜ血圧は高いままなんだろう。
水分を絞りすぎた反動で、何かを摂取しすぎてしまったのか。
睡眠も、血圧も、体重管理も。
それは終わりなき、そして正解のない難解なパズルだ。
僕たちは毎日、自分の身体という不安定な船を漕ぎ、200gの増減に一喜一憂しながら、明日という岸辺を目指している。
もし君も何かに「申し訳なさ」を感じながら、それでも自分の足で立とうとしているなら。
僕らは、目に見えない膜で繋がった「共犯者」かもしれないね。
さて、市役所が終わったら、少しだけ重い水を汲みに行こう。
200gの欠落を、また何かの形で埋めるために。
今日は予定はお休み。
けれど、体調管理に休みなんて最初からないんだ。
聞いてくれてありがとう。


