うまくいかない。
(パンダ談)
あのね、聞いて。
今日も生きてるよ。

900gという名の、覚えのない重罪
朝。
4時間34分という中途半端な睡眠を終えて、僕は「検品」のために体重計に乗る。
プラス900g。
そのデジタル数字は、僕の昨日の「我慢」をあざ笑うかのように無慈悲に点灯している。
喉の奥は砂漠の砂を1gずつ舐めとった後のように乾ききっていて、あんなに水を飲むのを控えたはずなのに。
僕の身体という袋の中にはどこからともなく湧き出た「正体不明の液体」が、確実に僕の重力値を底上げしている。
それは努力や忍耐といった情緒的な概念を一瞬で「エラー」として処理する、冷徹な物理法則の仕業だった。
僕の身体は、もう僕の意思では制御できないただの「不具合を抱えた受託案件」なのだ。
正常に動作しないシステムへの、静かな殺意
血圧は133の79。
心拍数は75。
数値だけを見れば、一見して均衡を保っているように見える。
けれど、中身はボロボロだ。
ドライウェイト(設定体重)というこの身体が維持すべき「正解」に対して、僕は900g分の間違いを犯したことになる。
「これくらいの調整もできないのか」
そう思うとき、僕は自分のことをネジの頭がなめきってしまった古い機械のように感じる。
仕事もうまくいかない。
事業もうまくいかない。
人間関係も。
そもそも自分の体内の水分量すらマネジメントできない個体に、社会的な付加価値を生み出す能力など備わっているはずがない。
そんな結論が36.8℃の体温を伴って、脳の隅っこで点滅し続けている。
不感蒸泄(ふかんじょうせつ)すらケチる僕の毛穴は、一体何を企んでいるのだろう。
濾過されるのを待つだけの、静かなパンダ
でも、飼育員さん。
よく考えればこの「900gの絶望」は、僕が生きようとして物質を取り込み、処理しきれなかった「生の残滓(ざんし)」そのものだ。
僕の腎臓がサボタージュを決め込んでいる以上、この過剰な重みは外部の機械に委ねるしかない。
事業の失敗も体重の増加も、すべては「濾過」のプロセスが滞っているだけのこと。
いずれすべては太い針とチューブを介して、無機質な機械が「正常」へと引き戻してくれる。
僕はただベッドに横たわって、自分の価値が「数値」に還元されていくのを眺めていればいいのだ。
今日はもう、難しいことを考えるのはやめにしよう。
何ひとつ上手くいかない1日は、何ひとつ変えようとしないことでようやく均衡を保つ。
僕は赤いパーカーのフードを深く被り、気の抜けかかった炭酸水をがぶりと飲み込んだ。
お腹はいっぱいなのにのどは渇いている。
新しい炭酸水を注文しなきゃ。
聞いてくれてありがとう。


