体重が増えやすい。
(パンダ談)
あのね、聞いて。
今日も生きてるよ。

体重計という名の、冷徹な独裁者
最近、僕の体は少しばかり機嫌が悪い。
普通の人にとっての「体重が増える」は、せいぜいベルトの穴が一つズレる程度の喜劇だけど、僕にとっては生存戦略に直結するシリアスなサスペンスだ。
ドライウェイト。
僕の命の適正体重を、誰かが決める。
自分の水分調整すら自分でできない僕の体は、他人にハンドルを握られた中古車みたいなものだ。
ドライを段階的に計700下げて、ようやく左足のむくみは引いた。
けれど、またやってきたのは、朝の血圧の暴走だった。
171/97mmHg。
朝から、血管の中を泥水が勢いよく流れているような、嫌な圧迫感がある。
おそらく、僕は痩せたのだ。
体脂肪が落ちて、中身が変わったのに、設定だけが古いまま。
そのズレが、僕の体の中で経済摩擦を起こしている。
月曜の朝にはレントゲンが待っている。
その数値をもとに、僕は「正しい重さ」にならなければならない。
血圧200の狂騒曲と、天使の溜息
昨日の透析中は、ひどかった。
血圧が何度も200を越えた。
僕自身は、別になんともないのだ。
頭が割れるように痛いわけでも、視界がチカチカするわけでもない。
ただ、僕の腕に巻かれたカフが膨らむたびに、モニターが「異常だ」とピーピー騒ぎ立てる。
その鋭い電子音が静かな室内に響くたび、若い看護師さんがパタパタと駆け寄ってくる。
「頭、痛くないですか?」 「本当に、どうもないですか?」
申し訳ない、と思う。
彼女たちの真っ直ぐな心配は、僕の「なんともない」という鈍感さのせいで、行き場を失っている。
彼女たちの眉間に刻まれた小さなシワや、何度もモニターを確認する指先の動き。
それは全部、僕という不完全な個体を維持するために支払われている「他者のコスト」だ。
僕は機械に繋がれ、誰かの労働を吸い取って、今日を生き延びている。
そんな僕の不自由さをあざ笑うかのように、あいつらは現れた。
どこから来たのか、名もなき侵入者たち
僕の部屋には、最近ちっちゃなアリが我が物顔で歩いている。
行列を作るわけでもなく、目的があるようにも見えず、ただ「そこにいる」のが当然といった顔で、ウロウロと徘徊している。
君たちは、どこから来たんだ。
100g単位で体重を縛られ、血圧200の警報音に怯え、決められた時間に機械に繋がれる僕の目の前で、彼らはあまりにも無秩序で、あまりにも自由だ。
その「ルール無用」な足取りが、今の僕には少しだけ、生理的に受け入れがたい。

だから、エサで殺すことにした。
僕の領域を侵す、その無邪気な自由を、甘い毒で終わらせる。
自分の血圧すらコントロールできない僕が、唯一行使できる、ちっぽけな支配。
睡眠時間は5時間28分。
増えは1.3kg。
リミットはあと1kg。
月曜日の朝、僕がレントゲン室へ向かう頃には、あのアリたちも静かになっているだろうか。
君も、僕と一緒にこの歪な静寂を分け合ってくれますか?
今日の予定は仕事だ。
血圧171のぼんやりした頭で、僕はまた、次の「重さ」を計算しはじめる。
聞いてくれてありがとう。


