今週もはじまるよ。
(パンダ談)
あのね、聞いて。
今日も生きてるよ。

夢の住人と、血圧166の不協和音
目が覚めると、頭の中に「かさかさ」という乾燥した音が残っていた。
夢の中で、彼女は僕の家に住んでいた。
高校生の頃の姿のまま、時間が硬化したような姿で、彼女は部屋に籠もって課題をこなしている。
僕はその部屋のドアの前に立ち、「おじゃましたくてたまらない」というバグを抱えて立ち尽くしていた。
彼女の体温によって温められた室内の空気が、ドアの隙間から1ミリの狂いもなく漏れ出しているはずなのに、僕の身体はその境界線を越えることができない。
物理的な質量を持たない夢の中ですら、僕は「許可」という名のパスワードを入力できずにエラーを吐き出している。
飼育員さん、これが僕の脳内で行われた、極めて非効率な「情報の空回り」だ。
ふと現実に戻り、血圧計のカフが僕の腕をぎりぎりと締め上げる。
表示された数値は「166/97」。
夢の残滓が、僕の血管を内側から物理的に押し広げているらしい。
循環する水分、循環しない室内干し
今日の体重増減は、ドライウェイト比でプラス2,300g。
僕というシステムのなかに、ペットボトル4本分以上の余剰な液体が溜まっている計算になる。
この液体は、僕の心臓を物理的に圧迫し、夢の中の「おじゃましたい」という情念と一緒に、僕の体中を重たく巡っている。
そんな中、わが家に「室内干しできるやつ」がやってくるという。
洗濯物を、外気にさらすことなく、密閉された空間で完結させるための装置。
それは、透析室という密室で自分の血液をぐるぐると循環させる僕の日常に、あまりにもよく似ている。
「お洗濯が楽になりそうな予感」とは、システムが簡略化されることへの期待だ。
これまでは「外に干す」という、太陽光や風といった制御不能な外部変数に頼っていた工程が、これからは僕の手の届く範囲の「室内」というクローズドな環境に集約される。
ささみフライと、血液のクリーニング
お弁当の献立には「チーズ入りささみフライ」が予言されている。
揚げ物の衣が、僕の舌の上で「ぱりぱり」と崩壊し、中から溶け出したチーズが粘膜に付着するだろう。
その脂質も、タンパク質も、数時間後には透析機という巨大なフィルターによって、無慈悲に選別され、除去されるべき「数値」へと変換される運命にある。
高校生だった彼女が解いていた「課題」の答えは、今の僕の血液データの中には見当たらない。
僕がドアの前で感じていたあのもどかしさは、今や「1分間に200mlの速度で血液を回す」という機械的なルーチンの中に溶けて消えるだろう。
さあ、これから透析だ。
僕という機械を洗浄し、2,300g分の「過去の重み」を排泄しに行く。
新しい物干し台が届く頃には、僕の身体は少しだけ軽くなり、少しだけ乾いているはずだ。
お腹が空いていない。
体の余剰な水分がきっとそうさせているのだから、僕は静かにバグを取り除きに行くよ。
聞いてくれてありがとう。

