春の嵐が過ぎ去り、杉の葉が舞い散るワガママ城(テント)の広場。
王子は、一番電波の入る「聖なる切り株」の上で、スマホを天にかざしながら高らかに宣言した。

決めた!
この広大な領土(お父様の山)を独り占めにするのは、領主としての器が小さすぎるよね。
これから、僕サマと一緒にこの国を支えてくれる『国民』を大募集するよ!
その声は、深い藪を抜け、先祖の墓を通り越し、川のせせらぎに吸い込まれていった。
隣でそろばんを弾いていた大臣が、ガタガタと袴を震わせて顔を上げる。

王子…!
ついに、ついに民を招き入れるとお仰るか!
拙者、感動のあまり、責任を取って今日から三日間、竹になりきって光合成のみで過ごしまする…!

大臣、それはただの空腹による幻覚です。
王子、民を招くのは結構ですが、この不便な山の上に住もうという奇特な方が、果たしてこの世に存在するのでしょうか。
まずは現実(ファクト)を見てください。
執事が銀縁メガネを指で押し上げ、冷徹な正論を突きつける。
しかし王子は、そんなツッコミを華麗にスルーして、使い古したパソコンのキーボードを叩いた。

いいの!
ここに住んでくれる国民には、王国メンバーが毎月心を込めて書き上げる『特別な記事』を、秘密のポストに届けてあげるんだ。
僕サマも、僕サマの魅力が溢れ出る、最高に格調高い記事を届けるよ!
これぞまさに『一蓮托生(いちれんたくしょう)』な関係だね!

…それを言うなら『会員特典』です。
あと、一蓮托生は死ぬ時も一緒という意味ですが、王子と無理心中したい物好きがどこにいると?

もー!
執事は夢がないなあ。
とにかく、この国に住むには『家賃』が必要なんだ。
お城を大きくして、黄金の瓦を乗せるための大切な献上金(サブスク費)なんだから!
その時、藪の中から「カシャカシャ!」と激しいシャッター音が響いた。
メイドが巨大な望遠レンズを抱え、泥まみれになりながら這い出してきたのだ。

王子…!
『国民募集』というパワーワード、尊すぎます!
その野望に満ちたキラキラした瞳、即座に秘密のSNSにバックアップ(無断掲載)しました!
今、世界中の推し界隈が震撼しています…!

メイド、仕事をしなさい。
王子の顔を撮る暇があるなら、新しい国民のためのテント用地を竹林から切り開いてきてください。
執事の指示を受け、メイドは「王子のための新興住宅地…! 劇的ビフォーアフターの血が騒ぎます!」と、竹で作ったノコギリを手に藪の中へ消えていった。
一方、野営のキッチン(焚き火台)では、シェフが不敵な笑みを浮かべながら巨大な鍋をかき回していた。

ふん、国民か。
入国審査のメニューは決まりだな。
パンの耳を極限まで熟成させた『黄金の入国ガレット』だ。
もちろん、中には森の精霊(グリンピース)をたっぷりと練り込んでやる。
この試練を乗り越えられない者に、この国のパンの耳を食う資格はない。

シェフ!
さっきから僕サマのセンサーが『バリ3(最大感度)』で反応してるよ!
入国早々、国民を絶体絶命にするのはやめてよね!

…チッ、また5G(豆の感度)に負けましたか。
次はもっと分子レベルで偽装してやりますよ。
夜、焚き火でマシュマロを焼きながら、王子は空を見上げた。

明日は白馬にハイオク満タン…じゃなくて、人参をたくさんあげて、街までポスターを貼りに行かなきゃ。
ペガサスの機内食…じゃなくて、僕サマのお弁当も豪華にしてね!

王子、昨日は『愛車のガソリンが切れた』と仰ってましたが、今日は人参で動く設定に戻ったのですね。
承知いたしました。
執事がため息をつきながら手帳にメモをする。
王子の設定はガタガタだが、その瞳には本気で「黄金の城」を夢見る純粋な光が宿っていた。

みんな、待っててね!
僕サマと一緒に、ここで世界一ワガママな国を作ろうね!
聖なる切り株の上で、アンテナ1本を探して踊る王子の影が、月明かりに長く伸びていた。


