竹林を抜ける風は、時として運命の響きを帯びる。
かつて父君より賜ったこの聖地は、今やデジタルという名の魔力を纏い、未知なる地平へと広がりつつあった。
画面の向こうに集う無数の民。
その熱狂は、かつての王国の栄華を想起させる。
これは、王子の指先ひとつが世界を揺るがし、あるいは滅ぼしかける、復興への叙事詩である。

ふふん…見ておくれ、執事! 大臣!
僕サマが毎日このあいぽん(iPhone)でパン屋さんの写真を放流していたら、ついにこの時がきたよ。
民たちが、雲霞(うんか)のごとく押し寄せているじゃないか!

おおお、王子!
さすがでございます!
王子の放たれる『映え』の波動に、民草が吸い寄せられるように!
まさに聖域への巡礼にございますな!

…単にSNSの投稿を見て、パンを買いにくるお客様が増えただけですよ。
王子、そんなにドヤ顔で画面を連打しないでください。
液晶が指紋で『雲霞』のごとく汚れています。

うるさいよ、執事!
これは戦略的連打だよ!
見て、数字がどんどん増えていく。
これが世に言う…『バルス』という現象だね!?

……はい?

だから!
民たちが一斉に僕サマに注目して、盛り上がることを『バルス』って言うんでしょ?
さあ、みんなで唱えよう。
せーの、バルス!!

ははあ! バルス!
……って、王子!!
それは某天空の城を崩壊させる、あかんやつですぞ!
目がああ! 目がああぁぁ!!

……え?
違うの?

『人がゴミのようだ』……ではありませんぞ、王子!!
王国の民をゴミ扱いしてはなりません!
それに、それを唱えたらこの竹林(お城)までガラガラと崩れてしまいますぞ!
ノリツッコミをさせるのも大概になされませ!

ちぇっ、かっこいい呪文だと思ったのに。
…まあいいや。
とにかく、僕サマの『バズる』魔法のおかげで、この国が大きくなる準備は整ったよ!

(あ、言い直した……)
それで、王子。
その『王国を大きくする計画』とやら、具体的にはどのような?

ふふふ…それはまだ、僕サマのこの高貴な脳内に大切に保管してあるんだ。
今教えたら、みんな腰を抜かして『バルス』しちゃうからね!

おお…なんと深謀遠慮(しんぼうえんりょ)!
未来を見据えるその瞳…まさに真の王の器!
続きが楽しみで夜しか眠れませぬぞ!

お楽しみにね!
僕サマの頭の中には、チョコレートパンより甘くて素敵な未来が詰まってるんだから。
…あ、執事。
お腹すいたから、さっきのパン屋さんのあまり、持ってきて!
と、いうわけで。
王子がどんな計画を練っているかは、また別のお話。


