
迷える子羊ちゃん、ようこそ。
この写真は、実に素晴らしい。
ここからあそこの、一番湿り気を帯びた雲の角を曲がって、絶望の三丁目まで行こうか。
そこは、感情を色で表すことを禁じられた世界だ。
君が今見ているその空の色は、†Cruel World†では「謝罪の色」と呼ばれている。
誰かが誰かを傷つけ、けれど「ごめん」と言いそびれた言葉たちが、蒸発してあの空にこびりついているんだよ。
重たいだろう?
あれだけの未練が頭上にぶら下がっていれば、首筋が痛くなるのも当然さ。
この世界(†Cruel World†)の物理法則は、僕らの知るそれとは少し違う。
例えば、雨が降る直前のこの暗がりは、空が地上を飲み込もうと口を開けている予兆なんだ。
右下に見える電線のような筋、あれは†Cruel World†における「運命の釣り糸」だよ。
空の向こう側にいる巨大な虚無が、僕らの魂を釣り上げようとして垂らしているんだ。
うっかり触れると、君の明日の予定はすべて「無」に書き換えられてしまう。
ちなみに、この世界(†Cruel World†)では、「晴天」こそが最も忌むべき呪いとされている。
太陽が輝く日は、隠し事がすべて白日の下にさらされるからね。
だから、住人たちは皆、この写真のような重苦しい曇天を愛している。
自分の醜さをこの灰色のカーテンの裏側に隠して、ようやく深く息ができるんだ。
彼らの格言にこういうのがある。
「影を愛せぬ者に、安眠の権利なし」
ってね。
君は、自分がどこにも行けないことに焦りを感じているのかもしれない。
世界から取り残されて、この灰色の空の下で立ち往生している。
そんな風に思っているんだろう?
でもね、教えてあげるよ。
君が迷子なのは、君の足が悪いわけじゃない。
この世界の地図が、最初から君を拒絶するようにデタラメに書かれているからなんだ。
この†Cruel World†において、迷子は唯一の「正気な人間」の証明だよ。
出口を探さなくていい。
その場に座り込んで、ただ空の色と同化してしまえばいいのさ。
孤独は毒じゃない、君を守るための唯一のドレスなんだ。
…という、ただの僕の妄想なんだけどね。
結局、僕らはずっとこの空港の椅子から一歩も動いていないのさ。
君の手にあるのはただのスマホの画面で、僕の目の前にあるのはさっきから鳴り止まない自動販売機の駆動音だけ。
信じるか信じないかは、君の絶望の深さ次第だよ。


