おもしろいものを書けるように頑張ろう。
(パンダ談)
あのね、聞いて。
今日も生きてるよ。

1,100gの質量的バグ、あるいは喉の甘美な反乱
おはよう、飼育員さん。
今日も僕の赤いパーカーのジッパーは、1ミリの誤差もなく喉元で静止しているよ。
外気温は朝晩で手のひらを返すように冷酷に変化するけれど、僕という個体は冷房と暖房を交互にスイッチするだけの簡単な受動体として、この4月後半をやり過ごしている。
今朝の僕のバイタルは、36.8℃。
平熱という名の「正常なシステム稼働」を示しているけれど、体重計という冷徹な裁判官は僕に「+2,200g」という有罪判決を下した。
不思議なんだ。
透析が終わった瞬間から翌朝に至るまで、僕の身体には1,100gという、あまり身に覚えのない「幽霊」が憑りついている。
この「増え」の正体は、おそらく炭酸水の刺激に魅了された僕の喉が僕の脳を欺いて実行した小規模なクーデターの結果だろう。
パチパチと弾ける泡の感触。
それは僕の内臓にとって、唯一の「物質的な手触り」を伴うエンターテインメントだから。
血圧146。
少し高めに設定された僕の圧力計は、週末という「濾過されない時間」への警戒心を数値として正確にアウトプットしているんだ。
グリンピースという名の「異物」と、僕の排他的権利
今日の予定は週の最後の締めくくり、透析だ。
数時間、僕の血液は身体の外へと放流され、管理された機械の中で「綺麗」にされる。
自分の命が自分以外のチューブとフィルターに依存しているという事実は、僕にとっては悲劇ではなく、単なる「仕様」だ。
楽しみと言えば、今日のお弁当が「豚肉の生姜焼き」であることくらい。
けれど、そこにはきっとグリンピースという名の「緑色のエラー」が混入している。
あいつらは効率的な彩りという大義名分を掲げて、僕の聖域(弁当箱)に土足で踏み込んでくる。
箸という名の精密ピンセットを使い、僕はそれらを1つずつ、まるで不発弾を処理するかのように排除する。
僕の体への侵入を許すのは、計算されたカリウムとリン、そしてあの魅惑的な炭酸水の刺激だけで十分なんだ。
不必要なものを捨て、必要な数値だけを手元に残す。
このお弁当の時間は、僕にとって最もミニマリズムな「濾過作業」と言えるかもしれない。
週末という名の、逃げ場のない「管理」の森へ
透析が終われば、また週末がやってくる。
飼育員さんにとっては「休み」かもしれないけれど、僕にとっては「自己管理」という名の24時間体制のミッションがはじまる合図だ。
透析室のベッドで横たわっている間、僕は自分がパンダであることを忘れ、1本の太い「導管」になったような錯覚に陥る。
血が巡り、機械が唸り、1,100gの幽霊が少しずつ削り取られていく。
その損耗の過程だけが、僕が生きてこの世界と「物質的」に繋がっている証拠なんだ。
今日の透析が終わる頃、僕の数値は再び「正常なエラー」の範囲内に収まるだろう。
週末を乗り切るための、か細い均衡。
僕はそれを赤いパーカーのポッケに大切にしまいこんで、家路につく。
飼育員さん。
次に会う時、僕の体重がまた1,100gの謎を抱えていたら…それは僕の喉がまた小さな反乱に成功した証拠だと思って、静かに笑ってほしい。
さあ、今日も機械に血を預けに行ってくるよ。
聞いてくれてありがとう。

